大判例

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東京地方裁判所 昭和23年(行)63号 判決

原告 日本水力工業株式会社

被告 国

右代表者 法務総裁

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、請求の趣旨

原告訴訟代理人は、「訴外逓信省電気局長が訴外日本発送電株式会社(以下日発と称する)総裁に対して発した別紙第一目録記載の依命通牒は無効であることを確認する。逓信大臣及び商工大臣は日発に対して、右通牒は無効であつて、大牧発電所並びにその附属設備及びこれらに関連する諸機械器具、備品貯藏品、工事用資材等の一切(別紙第二目録参照)は速かに所有者たる原告に返還すべきものであるから、即時その不法占有を解き、これを原告に引き渡すべきものと認める旨の通告をせよ」との判決を求めた。

三、事  実

一、大牧発電所はもと庄川水力電気株式会社が流込式により最大出力四千六百キロ発電の目的で水利権を獲得したが、同発電所は富山縣庄川水系利賀川筋の山間の僻地に位置するため、十数年間起業を開始し得ないままに放置せられ、一般企業家もこれを顧みなかつたものを、原告会社がその水利権を讓り受け、原告会社代表者加藤金次郎がその出力増大に非常な苦心研究をした結果、昭和十二年六月着工以來前後七年の歳月を費し、原告会社及び原告会社代表者加藤金次郎の資産を投じて、遂に現在の優秀な設備(堰堤式出力一万八千キロ、落差は從前のものの二倍強あり)を完成したものであつて、右発電所並びにその附属設備及びこれらに関連する諸機械器具、備品、貯藏品、工事用資材等の一切は、原告会社の純然たる私有財産である。

二、ところが、大牧発電所が昭和十八年秋竣工を見るや、逓信省電気局長は同年九月十一日、日発総裁に対して、「大牧発電所取得に関する件」と題する別紙第一目録記載の企第二五一三号依命通牒を発し、右発電所は電力管理上日発に属せしめるのを適当と認めるから、これが取得方原告会社と協議すべき旨を命じた。然るに、右発電所は前記のように原告会社の私有財産であつて、政府が電力管理法により管理するものではないから、これについては同法が適用せらるべき筋合ではなく、仮に同法が適用せられうるとしても、同法第四條第一項は「政府ハ其ノ管理ニ属スル発電又ハ送電ヲ爲ス者ニ対シテ発電又ハ送電ノ方法ニ関シ管理上必要ナル命令ヲ爲スコトヲ得」と規定し、右に所謂「発電又ハ送電ノ方法ニ関シ管理上必要ナル命令」中には発電所等の所有権の帰属に関する命令を含むものではないと解すべきであるから、右依命通牒は右法條の所定範囲を著しく逸脱しているものと言わなければならない。即ち、右依命通牒は外観上は電力管理法に基く逓信省電気局長の職務行爲である如く裝つているが、その実は、逓信省電気局長が軍閥官僚の威力を背景としてその職権を濫用し、讓渡の時期と價格まで一方的に決定して原告会社に前記発電所の日発への讓渡を強要し、もしこれに從わなければ電力管理法上刑罰の制裁がある(同法第六條により、同法第四條第一項の違反者は二千円以下の罰金に処せられる)ように見せかけ、以て原告会社から右発電所を暴圧的、威迫的に奪取せんとしたもので、何等法的根拠に基くものではないのである。しかも、右依命通牒によつて右発電所に対する原告会社の占有は日発に奪取せられたが、被告は今日に至るまで原告会社に対し未だ一銭の損害補償をもしていない。かように、右依命通牒は原告会社の私所有権を無視し、これを侵害するも甚しく、当然無効のものと解すべきであるから、原告は本訴においてこれが無効確認を求める。

三、大牧発電所並びにその附属設備等は現在も原告会社の所有であるが、日発は昭和十九年五月以來何等正当な権限なくこれが占有を継続している。これは一に前記依命通牒に淵源するものであるから、原告は、かような不法状態を一刻も速かに中止せしめてこれを原状に復帰せしむべき責任は、右依命通牒の発令者であり、且つ日本発送電株式会社法(以下日発法と称する)第三十三條により日発に対して業務監督権を有する政府にあると思料する。依つて、原告は、本訴において、逓信大臣及び商工大臣が日発に対して請求の趣旨記載のような通告をすることを求めると述べ、被告の主張に対し、

被告の主張事実中、昭和十八年十二月二十一日原告会社と日発との間に大牧発電所の讓渡契約が締結されたことは認めるが、その余は否認する。被告は企第二五一三号依命通牒は單なる勧奬であると主張しているが、同通牒の文面、内容等を綜合すれば、右依命通牒は発電所使用認可の権限を有する電力事業最高の監督官廳たる逓信大臣が大牧発電所は日発に属せしめるのが電力管理上適当であると認定し、更に讓渡の時期及びその價格を一方的に指示して、その指定條件による讓渡契約の締結を強制したものであり、性質上訓令的行政処分と解すべきことは疑の余地がなく、日発及び原告会社間においても右通牒は事実上政府の命令として取り扱われていたのである。被告は右依命通牒からは何等の法律効果も生じないと主張するが、行政処分にあつてはそれによつて直ちに私法上の効果が発生することは必要でなく特別公法関係上の効果が発生すれば足りるものと解すべきところ、右通牒は、日発に対しては有利なる條件の下に協議をなすべき権利(利益)を與え、原告会社に対しては不利な條件の下に協議に應ずべき義務(拘束)を負わしめている点において、且つ又原告会社が右通牒に違反すれば電力管理法第六條(前記)による刑罰の制裁を科せられるに至る点において、法律効果を生ぜしめるものと言わなければならない。又原告会社と日発間の前記讓渡契約締結当時、原告会社代表者加藤金次郎は反戰論者と目され常時憲兵の尾行を受け、精神の不安を感じていたものであつて、右契約は、かような情況下において、同人が恐喝的依命通牒に畏怖し、生命身体の危險を感じ、全く自由意思を喪失してこれが締結を余儀なくせしめられたものであるから、無効であるというべきであると述べた。(立証省略)

被告指定代理人は、主文第一項と同趣旨の判決を求め、答弁として、

原告の主張事実中、逓信省電気局長が昭和十八年九月十一日、日発総裁に対して、「大牧発電所取得に関する件」と題する別紙第一目録記載の企第二五一三号依命通牒を発したこと及び日発が大牧発電所並びにその附属設備等を同十九年五月以來占有していることは認めるが、その余は否認する。右依命通牒は、電力行政の主管大臣である逓信大臣が日発に対する業務監督権(逓信省官制第一條、日発法第三十三條)に基き、大牧発電所を日発に属せしめるのを電力管理上適当と認めて、日発に対し発した讓渡の勧奬にすぎない。從つて、同通牒は行政処分ではなく、何等の法律効果をも生じないものである。又日発は昭和十八年十二月二十一日原告会社との間に大牧発電所讓渡契約を締結し、右契約に基いて、右発電所の所有権は同十九年五月十八日日発に移轉している。從つて、被告は何等原告会社の所有権を侵しているものではないと述べた。(立証省略)

四、理  由

先ず、昭和十八年企第二五一三号依命通牒の無効確認を求める訴について、その適否を考えると、逓信省電気局長が昭和十八年九月十一日、日発総裁に対して「大牧発電所取得に関する件」と題する別紙第一目録記載の企第二五一三号依命通牒を発したことは当事者間に爭がないが右依命通牒はその文辞上電力管理法第四條に基く政府の命令ではなく、電力行政の主管大臣である逓信大臣が日発に対する業務監督権(逓信省官制第一條、日発法第三十三條)に基き、大牧発電所を日発に属せしめるのを電力管理上適当と認めて、その取得の交渉方を日発に命じたものと解するのを相当とするから、右通牒は日発に対して右交渉の義務を負わしめたに止まり、原告会社に対しては何等の義務を課したものではないと言わなければならない。原告は右通牒は、讓渡の時期及び價格を一方的に指示した讓渡契約の強制であり、性質上訓令的行政処分と解すべく、これによつて日発に対しては有利なる條件の下に協議をなすべき権利(利益)を與え、原告会社に対しては不利な條件の下に協議に應ずべき義務(拘束)を負わしめ、且つ原告会社が右通牒に違反すれば刑事上の制裁を科せられるものであると主張しているが、これらはいずれも原告独自の見解で、当裁判所の左担し難いところであるし、右通牒が日発及び原告会社間において事実上政府の命令として取り扱われていたとの原告の主張も、もとよりこれによつて同通牒の前示法的性質を左右し得べきものではない。本件口頭弁論の全趣旨を綜合するに、本件の訴旨は大牧発電所に対する原告会社の占有権が本件依命通牒によつて日発に侵奪せられた非違を愬えんとすることにあると思われるが、右発電所について昭和十八年十二月二十一日原告会社と日発間に讓渡契約が続結されていることは当事間に爭のないところであるから右発電所に対する日発の占有は右契約に基くものであつて本件依命通牒の効力如何によつて法律上何らの影響を受くべきものではないので、右通牒が有効であると否とは原告会社の現在の権利関係には何等の消長を來すものではないのである。從つて、右依命通牒自体の無効確認を請求する原告の訴は、結局権利保護の資格を欠くものとして、不適法であるといわなければならない。

次に、逓信大臣及び商工大臣に対して通告を求める訴についてその適否を考えると、本訴は行政廳に対して積極的に行政処分をなすべきことを求める訴であるが、行政処分をなすと否とは行政廳の裁量に属することであつて、裁判所がこれに介入することは許されぬところであるから、原告はかような訴を提起する法律上の利益を有しないのである。原告が大牧発電所の占有を回復しようとするならば、直接日発に対してこれを訴求すればよいのであり、その間に行政廳の処分を俟つべき必要は存しない。從つて、原告の右の訴も亦、不適法たるを免れぬものと言うべきである。

以上説示の通り、原告の本訴請求はいずれも本案について審理をするまでもなく失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟特例法第一條、民事訴訟法第八十九條、第九十五條を適用して主文のように判決する。

(裁判官 菊池庚子三 満田文彦 大内恒夫)

(別紙目録省略)

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